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更新日: 2022年05月09日

『はじめてのUXリサーチ』著者登壇! 組織でUXについて取り組む方法を徹底解説!

「ユーザーをもっと明確に捉えてサービスの開発を進めたいのにやり方が分からない」といった悩みを聞くことがあります。
また、ユーザー体験(UX: User eXperience)を重視したサービス開発に取り組むためにUXリサーチという方法があることは知ってはいるものの、具体的にどのように活用したら良いか分からないという声も聞きます。

そこで本セミナーでは『はじめてのUXリサーチ』著者、草野様をお招きしUXを重視したサービス開発について、UXリサーチを中心に「UXリサーチとは何か」「どのように実践するのか」「どのように組織で取り組むのか」を事例を交えて紹介していきます。

UXについての最前線の取り組みを聞ける貴重な機会となっておりますので、是非ご参加ください。

セミナー内容

『はじめてのUXリサーチ』著者登壇! 組織でUXについて取り組む方法を徹底解説!

  1. UXを重視したサービス開発とは?
  2. UXリサーチとは
  3. UXリサーチのプロセス
  4. UXリサーチを活用したサービス開発の事例
  5. UXリサーチを組織で取り組むには

登壇者紹介

草野 孔希

草野 孔希 氏

UX Researcher

電気通信大学大学院修士課程修了後、通信事業会社の研究所に入社し、デザイン方法論の研究および研究知見を活用したコンサルティングに従事。
同時期に社会人博士として博士後期課程を修了 博士(SDM学)。
現在は事業会社やコンサルタントとしてUXリサーチを活用したサービスデザインに取り組む。
著書として「はじめてのUXリサーチ」がある。

はじめに

本日お話をさせていただきます、草野と申します。

普段はメルペイという会社でUXリサーチチームのリサーチャー兼マネージャーとして仕事をしております。

私はリサーチャーをしている傍らで大学院の特任講師や法人の代表などさまざまな仕事をしております。

UXとは 捉え方・始め方

さっそく本編に入っていければと思っております。

まず最初にユーザーエクスペリエンスとは何なのか?というお話をしていき、徐々に具体的なところに入っていければと思っております。

まず「ユーザーエクスペリエンス」というのは何かと言いますと、

サービスを使う前・使っているとき・使った後に起きる人の知覚や反応のことです。いろいろと定義があるわけですが、私はISOの定義に沿ってこのような言い回しをしております。

ユーザーエクスペリエンスと言いますと、ユーザーインターフェース(UI)を使っているときの体験だけをイメージされる方もいます。しかし、ユーザーエクスペリエンスはユーザーインターフェースを使っているときだけではなく、サービスを使う前や使った後も含めてユーザーエクスペリエンスと言うことが多いです。

良いユーザーエクスペリエンスを実現するために人間中心設計というプロセスがあります。

・利用状況の把握と明示
・ユーザーと組織の要求事項の明示
・設計による解決策の作成
・要求事項に対する設計の評価

このような反復型のプロセスを回していきます。

今日はこのようなプロセスを組織でうまく行うためにはどうすれば良いのかという話を主にさせていただきます。

まず、ユーザーエクスペリエンスを考えていくために、どのような視点で捉えていくと良いのでしょうか?

例えば、UXエレメントという捉え方があります。こちらは元々はWebサイトを構築していくためにどういった要素で考えていくとより良いユーザーエクスペリエンスが作れるのかといったものです。

こちらでは表層のビジュアルデザインのような話もあれば

「どういうUIにするか?」
「どういったインフォメーションアーキテクチャになるのか?」
「どういった要件があるのか?」
「そもそもどういうニーズがあるのか?」

といったさまざまなレイヤーでデザインを考えることができます。

これらをしっかりとデザインしていくことで、より良いユーザーエクスペリエンスが実現できます。

もう1つはUXタイムスパンがございます。「利用前」「利用中」「利用後」「利用全体」といったいろいろなタイムスパンで、そのユーザーエクスペリエンスを捉えることができます。

例えば広告であれば利用前のユーザーエクスペリエンスもありますし、ユーザーインターフェースであれば「利用中」といった話になります。例えば「口コミを書いた」であるとか「お友達に紹介することになった」といった話ですと「利用後」や「利用全体」となります。こういったことをトータルで捉えていくこともユーザーエクスペリエンスの考え方です。

「UXをどう捉えるのか」をチームや組織で共通認識を持つことが、UXを重視したサービス開発をする上で大事なポイントの1つであると思っております。

そもそも今、この「ユーザーエクスペリエンス」や「ユーザーインタフェース」を考えるプロセスが非常に重視されているわけですが、それはどうしてなのかという話があります。

1つはVUCAな時代というのを私は要因として挙げております。VUCAな時代というのは

・変動性が高い
・不確実性が高い
・複雑性が高い
・曖昧性が高い

この4つを並べたものです。

つまり多様性が高くて、先が見通せなくなってきているということです。例えば「日本人30代女性」という風にひとくくりでセグメントを切ったとしても、その中にはさまざまなライフスタイルがあるわけです。

例えば決済領域であれば、非常にキャッシュレスを使っている人もいれば「ほとんど現金です」といった方もいらっしゃいます。

しかも今の時代は数年もすると新しいスマートフォンや全く違うサービスを使っています

技術もどんどん進化しておりますので、なかなか想像するのが難しい時代になってきています。

そのため、当事者の体験、当事者がどういった生活をしてきたのかを深く理解してサービスを作ることがより重要になっています。

ユーザーエクスペリエンスを考えていくときに武器になるのがUXリサーチだと私は考えております。

UXリサーチは「さまざまな場面で起きる人の知覚や反応について調べ、明らかにするもの」です。

ではUXリサーチはなにが良いのかと言いますと、少なくともこの3つの理由があります。

1つ目はサービスのリリース前から学びが増やせます。別にアプリを作らずともいろいろと調べることができますので、調べることによって少しでも失敗を減らして、リリースするときに良いものにしていくことができます。

2つ目はサービスをリリースした後であれば、いろいろな定量データが取れますが、そのデータの解釈をするためにUXリサーチがうまく活用できます。例えばユーザーが数多く利用をやめている理由を調べると「裏にはこのようなお客さま体験があったのだ」といったことがわかります。そうすると行動データの解釈の精度が高められるわけです。

3つ目は組織づくりで活用できます。お客さまのことがより詳細にわかることで、より推進力を持って取り組むことができます。

UXリサーチはいくつかの分け方ができます。たとえば「探索」「検証」「質的」「量的」があります。探索のリサーチというのは、例えば「お客さまはどういった生活をしているのだろうか?」といったことをオープンクエスチョンで解き明かしていくものです。

次に検証のリサーチというのは、例えば「このアイデアが良いと思うけれど、お客さまにも良いと言っていただけるだろうか?」といったことを調べるリサーチです。

次に質的なリサーチと量的なリサーチの話です。

質的というのは、たとえば「お客さまがどういった生活をしているのか」ということです。例えば「これをして、これをして、これをしています」といったことや「なぜそれを行っているのか?」といったことを明らかにします。

量的なリサーチというのは、例えば「1日何回、これを行っているのか?」「1日いくらくらいこれを使っているのか?」といった話であったり「そういった生活をしている人は何人くらいいるのか?」といったことを明らかにしていく方法です。

これらは相互補完的に使えます。ただし、目的に合わせて使い分けないと良い調査になりません。

UXリサーチの組み立て方 プロセスや手法

ここまで「UXとは何か?」「UXを考えるプロセスとは?」「UXリサーチはどう使うか?」ということが見えてきたと思います。

次に具体的に「どのようなプロセスをUXリサーチを組み立てていくのか?」という部分についてお話をしていきます。

UXリサーチの流れはだいたいこのような流れです。

なぜUXリサーチが必要なのか状況理解をして、どのような問いを明らかにするのかという問いを立て、その問いを明らかにするための手順設計を行い、調査の準備をして、実際に調査を実施、データを取得、データを分析・統合、最後に得られた結果を活用していくという流れです。

ありがちなのが

とりあえず「ユーザーテストを行いたい」というケースです。重要なのは一歩立ち戻って

「どうして私たちはユーザーテストをしたいのか?」
「そもそもリサーチをする必要があるのか?」

をしっかりと考えてから調査を行うことです。

UXリサーチを組み立てていくときは、まず「なぜ行うのか?」ということをしっかりと明らかにして「どういう風に結果を活用したいのか?」というところまでを描きます。

それができたうえで実際に手順を設計して調査を実施し、データを分析します。

調査手法は本当にたくさんあります。調査手法のうち、何を使うと有効なのか合わないのかを知っておくと、目的に合わせた調査がしやすくなります。

例えばユーザーインタビューがあります。インタビューの中にも「デプスインタビュー」「グループインタビュー」がございまして、私たちがよく使うのはデプスインタビューという1対1で実施するパターンです。

デプスインタビューでは、その人がなぜそういった生活をしているのか、なぜそのようなサービスを使っているのかなどを深く聞くことができます。

デプスインタビューでは「そんなことは思ってみなかった」といった新たな気づきが得られます。その気づきが新しい発想につながっていきます。

「1人だけに意見を聞いて何の意味があるのか」という風に言われがちですが、逆です。たとえ1人の意見であっても「自分たちの知らないことが新たにわかる」ということに価値があるわけです。

他にもコンセプトテストという、やや検証寄りの手法があります。サービスアイデアを単なシナリオなどにして、それに対してユーザーがどういった反応をするかを調べる方法です。

私が同僚と「はじめてのUXリサーチ」という本を書くときもコンセプトテストをおこない、見込みの読者からフィードバックをもらいました。

これにより実際に作る前から学びを得ることができます。

他にはユーザビリティテストという手法もあります。「コンセプトは良いが、どういったUIで作るとお客さまにとって使いやすいのだろうか?」を検証します。

UIのプロトタイプ、Figmaなど良いツールが沢山ありますので、それらを使いながら、使いやすさを評価して改善を繰り返していく方法もあります。

このように各レイヤーごとに使う手法が変わってきますので、うまく使い分けられるようにしております。

CASE STUDY UXリサーチの活用事例

実際にどのようなケーススタディで、どういう風にUXリサーチを活用していくのかについてご紹介できればと思っております。

今回紹介するのは「おくる・もらう」というプロジェクトです。1つのプロジェクトの中でいろいろなリサーチを活用した事例です。「おくる・もらう」はお金を送ることができる機能です。

進め方としてはこのような流れです。

戦略、サービス、マーケプランの検討においてUXリサーチャーが関わっております。それぞれどういう風にUXリサーチが活用されたのかをお話しします。

まずは戦略検討の段階ですと、コンセプトテストのためにフリーイラストを使った簡単な4コマ漫画を作成しました。こちらを使用して「いろいろなユースケースの中でどれを一番使いたいと思うか?」といったことを聞きました。

コンセプトテストを通して仮説を立てて、アンケートで量的に「誰に送りたいか?」というデータを取ります。このように量と質を組合わせたような調査を行いました。

調査をしてみると、友人や知人に送るよりもどちらかと言えば家族や親族に送りたいといった特徴が見て取れました。

次に、コンセプトに基づいてUIのプロタイプを作り「実際にこのような手順で送るとしたら、どうなのか?」をコンセプトテストやユーザビリティテストを通して検証しました。

 

このようにブラッシュアップしていき、よりお客さまが安心して便利に使える機能を目指していきました。

その他にも「どういったマーケティングプランで、実際にコミュニケーションしていけば良いのか?」においても、先ほどご紹介したテキストでコンセプトをお見せして、お客さまがコンセプトにどういった反応をするか調べます。

ある程度コンセプトが固まってきたら「では実際どういう関係者の方に送りたいですか?」といった内容で改めてアンケートを取るなど、最終的なコミュニケーションプランを固めるところでもUXリサーチを活用しました。

このプロジェクトでは、PMやデザイナー、UXリサーチャー、さらにはマーケティング担当やマーケティングに関するPMと幅広くコラボレーションしました。

「UXを考える」というのは、多様な職種の人たちが一丸となってできることが大事であると思っております。

もう1つ事例を紹介しますと、eKYCという機能です。「アプリでかんたん本人確認」と呼ばれる機能ですが、こちらはユーザビリティテストを繰り返した事例です。

このような感じでユーザビリティテストを繰り返していました。リリース前はfigmaやInVisionでプロトタイプを作成して「アプリでかんたん本人確認」がどういう風に捉えられるか、どういうところが不安になるのかといったことを調べました。

インカメラで自分の顔や証明書を写すので、慣れていない人には難しい操作です。ですので、どういうガイドがあれば不安なく、確実にできるかを突き詰めていきました。

リリース後になると、お客さまが利用を止めているところが定量的に分かってきます。他にも「別の身分証明書にも対応したい」といった追加要求が出てきます。そのため、リリース後も改善を続けました。

例えば、運転免許証はカード型なのですが、パスポートは冊子型です。どうしても難しさは変わりますし、同じUIでは対処できなかったりもします。そのため、UIやガイドを修正するために、ユーザビリティテストを繰り返しながら改善しました。

加えて、この機能は新しい法律に対応するシステムですので、デザインに関する参考例があまりありませんでした。

そのため、ユーザビリティテストを組み合わせながら良いデザインを探っていきました。

なお、このプロジェクトは組織的に何度もユーザビリティテストを回せるようにルーティン化しておりまして、効率的に作業できました。

UXを組織で考えていくときにこういった仕組み化は大事なことですので、ある程度余裕が出てきたら取り組んでいくと良いです。

仕組み化の観点でいうと、この取り組みの最中にちょうどコロナウイルスが流行り始め「対面で実施できない」という問題が起こりました。

そこで「リモート下でもリサーチができる仕組みづくり」もしました。

そのおかげで社員は誰でもリモートでUXリサーチができるような環境を作ることができました。この時、オンラインリサーチ専用ツールを導入することも検討しましたが、そうした場合はツールを契約している人しか取り組めなくなります。そうではなく、皆が普段から使っているツールを活用してリサーチができる仕組みを作りました。そうすることで、組織の誰もがUXを考えたり、リサーチを行いやすい環境が作れます。

UXリサーチを組織で活かす

ここまで事例も含めていろいろとお話しさせていただいたわけですが、次は今日のテーマでもある「UXリサーチを組織で活かしていく」ことをお話しします。

組織でUXリサーチを活かしていくには、段階があると思っております。

最初から立派な仕組みや文化を作ろうとしても非常に難しいです。ですので「組織で活用する」ということが最終ゴールにあるとしても、まずは関係者を引き込みながら小さい規模で取り組んでみることが大事です。

上手く引き込めたら、継続的な関係を構築しつつ、その人たちが他の人にもオススメしてくれるような段階まで持っていきます。その上で、全社定例の会議などでより多くの人たちに周知します

また、リサーチが広まるとスケーラビリティの問題が出てきますので、仕組み化をしたり、リサーチができる人を増やします。ここまでくれば「みんなが当たり前にUXリサーチに触れられるような文化」を作っていくフェーズに入ることができます。

このように段階を踏むことで「組織でUXを考える・組織でUXリサーチを活用していく」ことができます。「いきなり大きなところを目指さずに、小さいところから始める」ことを意識していただくことが大切です。

とはいえ「組織を作らないとリサーチは出来ないのではないか?」といった批判が出るかもしれません。しかし、UXを考える際には小さく始めることが可能です。

今は良い時代で、Zoomが無料で使えます。ミーティングの合間にオンラインインタビューの時間も簡単に確保できます。

予算もオンラインリサーチで安いところですと、30分数千円でお客さまをお呼びできたりします。「インタビューの専門性がなければ上手く聞けないのではないか?」といった不安もあるかもしれません。もちろん専門性はあった方が良いです。

ただ、

・この人の話を聞きたい
・この人から何か新しい学びを得たい

といった興味と敬意を持っていれば、何かしらの学びはあるものです。専門性がないからといって、臆することはないと思っています。

また「上司の理解がないとできない」といった話もあるかもしれません。しかし、Zoomミーティングの扱いでできて、謝礼も数千円くらいの金額ですし、大したコストにはなりません。上司の承認を取ったり、稟議を回すこともなく始められることがあると考えています。

まずは小さく始めてみて、実際始めてみたらこのような学びがあったといったことを周囲に伝播して引き込んでいくことが良いでしょう。

小さく初めてみて興味を持つ人が増えてきたら、勉強会をするのも効果的です。私達も社内で勉強会を開催しています。

もしくは、勉強会とまでいかなくても、まずはリサーチに小さく巻き込むことで認知をしてもらったり、理解を深めてもらうのも良いでしょう。

先ほど紹介したように、私たちは反復的にリサーチを効率的に回せる仕組みを作って、毎週4人ずつお客さまをお呼びしてリサーチをしています。

また、定期的にリサーチをやっていると「あの人たちに声をかければ、お客さまとお話ができるらしい」といった認知が広がり、いろいろな人が引き込まれてきます。

次に、リサーチのデータを蓄積していくことは「組織的にUXを考えていく」上で重要です。

・どのようなインタビューを
・どのような目的で行って
・どのような記録になって
・どのような考察をしたのか

といったことを、私たちはスプレッドシートで管理していて、後でデータを活用する際にとても役に立ちます。

例えばメンバーに「こういったデータはありませんか?」と言われた場合に「過去にこのようなリサーチ結果がありました」とすぐ出せたり「このようなリサーチがやりたい」と言われた時に「過去にやったことがないので、新しくリサーチしたほうが良いです」と素早く答えることもできます。

また「こちらにレポートがありますので、まずは読んでみていただけますか?」などと伝えられる点も良いです。

リサーチのデータを蓄積していく手間はかかりますが、後々振り返ってみるとむしろ効率的だと考えております。

リサーチというのは、あくまでリサーチだけで終わりません

リサーチ結果がプロダクトの改善につながったり、新しい施策になったりすることが大事です。ですので、リサーチ結果が活用できるように働きかけます。

私はUXリサーチャーとしてアイデア出しのためのワークショップを行ったり、議論の場のファシリテーションまで担うことがあります。

組織でUXを考える場合はリサーチそのものも大事ですが、それをどのように活かすかまで含めて仕組み作りができると、より良く活用できます。

組織で取り組むときに「実践知」を共有していくことは大事なことです。

こちらは組織の中と外の話が両方あります。まず、組織の中ですとリサーチをしている人に知見が溜まりがちで「属人化」しがちです。なので、日々リサーチをする知見を組織内で意識的に共有していきます。

やり方としては、お互いの活動やリサーチ結果を共有したり、ピアレビューをしたり、KPTを行ったり、スキルの棚卸をしたりします。

もう1つは、組織の外や業界内で交流していきます。例えばイベントを共催してみたり、コミュニティに参加したり作ったりすることも良いでしょう。

リサーチ結果はコンフィデンシャルな情報が多いのですが、やり方やプロセスについてはいろいろと実践知を共有できます。

実践知を共有するなかで、他社さんでも効果が出ているやり方が分かると、社内に輸入したときにすごい推進力になることもあります。

ここまで紹介してきた仕組みづくりをまとめた考え方として「ResearchOps」があります。

ResearchOpsというのは、リサーチオペレーションのことです。基本的にはリサーチの運用という意味ですが、運用だけではなく質の高いUXリサーチを続けられるための仕組みをつくる、戦略を考える、文化を醸成するといった広い意味で捉えられます。

私たちが参照している定義ですとつぎの6つがあります。

  • リクルーティングの効率化
  • ガバナンス
  • ツール
  • ナレッジマネジメント
  • コンピテンシー
  • 広報活動

この6つの観点で考えていくと、組織的にリサーチを効率的・効果的に運用できると言われています。

ただ、これらを全てできるのは段階としては後半です。まずは小さく始めて、周囲を巻き込みながら少しずつ仕組み化していくところから始めていくのが良いでしょう。

おわりに

今回この4点についてお話しさせていただきました。

今回お話しした内容は「はじめてのUXリサーチ」という本でもご紹介しておりますので、もう少しくわしく知りたいという方はぜひそちらをお読みください。

本日の講演は以上とさせていただきます。ご静聴ありがとうございました。

Q&A

Q1:免許証やパスポートを使った本人確認について質問させてください。UXリサーチを「170回実施」されたと記載されていたと思いますが、なぜそれほどまでに多くの回数のリサーチが必要だったのでしょうか? それくらいの回数が普通なのでしょうか? もしくは何か特別な理由があったのでしょうか?

草野

普通はここまでの回数は行いません。なぜ多くのリサーチをすることになったのかというと、1つはこの機能は「特殊な状態」にあったからです。

2018年の11月に法律が改正されて、日本国内においてスマホ上のやり取りだけで本人確認を行うことができるようになりました。実際にこちらをリリースしたのは2019年の4月頃ですので、5カ月程度でリリースしているわけです。

そのため、参考にできるデザインの前例があまりありませんでした。

海外ではeKYCの事例はあったのですが、法律の解釈や身分証の形が違っていたり、自撮りに対する意識の違いがあったり、カルチャーの違いが積み重なっておりまして、参考にできるデザイン例なども少ない状態でした。

ですので、それを1つ1つ積み上げていく必要がありまして、どんどん回数が増えていったという理由があります。

他には、身分証の形状が変わる(たとえば、運転免許証なのかパスポートなのかなど)とまたゼロからいろいろと調べなければいけないということで、回数が増えていったということ。また法律の解釈も必要で「業界的にここまでは大丈夫」「ここまで簡略化しても大丈夫」といった話が変わっていく過程がありました。

それに合わせたデザインの変更に「お客さまがどう反応するのか?」を調べなければいけませんでした。この辺りの事情があり、結果的に回数が増えたのが事情です。

Q2:デプスインタビュー結果をまとめてインサイトを見出す際のアドバイスをいただければ幸いです。

草野

どうしても質的データの分析で分析者の主観が入るのは仕方がないことです。ですので「どういうプロセスで解釈していたのか?」をしっかりと残せるようにするということが大事です。

先ほど少し紹介したKA法KJ法などの分析手法がありますので、そちらを参照していただくのが良いという風に思っております。

ただ、質的データの分析は時間がかかりますので、やり方を知ったうえで実務上で工夫しながら活用していくと良いと思っております。

Q3商品開発にUXリサーチを取り入れることについて、啓蒙活動から始める必要があったことに驚きました。日本でUXリサーチを取り入れている会社はまだまだ少ないのでしょうか? 日本と海外の状況を教えていただければ幸いです。

草野

まず海外の事情で言いますと、やはり米国が一番UXリサーチャーのジョブとしては多いと思っております。

おそらく、ジョブをしっかり分け、専門性の高い人を組み合わせてコラボレーションする考え方が強いためでしょう。また市場も日本よりも多様性が高いので「調べないとわからない」ことが多いのだと思います。

それに比べると、日本は比較的「モノカルチャー」です。ジョブがあいまいで、兼務することも多いです。そういった意味でUXリサーチャーと呼ばれる役職が確立されるのに時間がかかったのだと思います。

ですので、プロダクトマネージャーやプロダクトデザイナーが実際はUXリサーチをしていたりします。しかし、より専門性が必要になったり、よりリサーチに投資をして調べてみないとわからない、という状態が強くなってきております。そのため、UXリサーチャーがジョブとして重視されるようになってきていると思っております。

Q4:経営上のリサーチでは仮説が必要かと思っております。仮説をどのように立てているのかお教えいただければ幸いです。

草野

探索のリサーチと検証のリサーチの両方を使うのが良いと思います。

そもそも仮説が立たないのだとすると、その仮説を立てたい対象の理解が必要だと思っています。例えば「そもそもどういった生活をしているのか」「生活上の悩みごとは何か?」などとインタビューをして探索的に調べます。そして、困りごとが分かれば、困りごとに対してのアイデアがどんどん出せるようになります。それが「仮説」となります。

次は、アイデアが困りごとを解決できるのかを検証型のリサーチで調べます。でも最初の仮説は大体外れてしまいます。ですので外れたら「なぜ外れたのか」を深堀りして、探索していき、理由がわかると次のアイデアを出していくということを繰り返し行います。それにより徐々に仮説がブラッシュアップされていきます。

また、初回から決め打ちで仮説を当てていくのはとても難しいですね。そうでなければ反復型のデザインプロセスなんて定義されません。

Q5:ケース1のコンセプトテストを行ううえでサービスニーズに合う方を選定しましたか? 幅広く意見を収集しましたか?

草野

ご家族がいる方に絞って聞くことが多かったと思っております。ただ、例えば仮説があいまいな場合は、あえていろいろな協力者をお呼びして「こういった人はこういった反応をするのだな」という風に幅広くデータを収集し、コンセプトをブラッシュアップした後でお呼びする方を絞ることもあります。

Q6:新しいサービスでは潜在ニーズの気づき・発見がテストを受けるユーザーにも必要かと思っておりますが「いいね」と評価を受けるコツがあれば教えてください。

草野

バイアスをかけてしまいますので「いいね」と思わせようと思わないほうが良いです。

それよりは、例えばユーザーが「いいね」と言ったとして、その時に「自分の生活のどういった場面で出てくると思いますか?」「今使っている手段のどういうところが変わるから良いと思いましたか?」という風に実際の生活を思い出してもらいながら深掘りしていくと、いろいろなことが見えてきます。

他には、やはり文章で読んだだけでは分からず、実際に置いてみないとわからない、実際に使ってみないとわからない、といったことが出てきたりもします。

そういった場合は、たとえばWizard of Oz(オズの魔法使い)という、まるでプロダクトが本当にあるかのように見せて、裏側では人が操作してみせていく方法があります。そういった方法を使って体験をしてもらいながら、どういう反応をするか観察します。

ですので「いいね」と思わせようとか、売り込もうとしてしまうとすごくバイアスがかかってしまいますので、その人の生活に根ざしているものに注目をしたり、その人が体験する中でどう感じるのか気づきを得ていくことが非常に大切です。

Q7:マーケットリサーチを行う部署はありますか? UXリサーチとマーケットリサーチで日常的にコラボレーションしている場合、どのような目的で行いますか?

草野

コラボレーションしていると思います。

マーケティングリサーチと言いますと、市場がどうなっているのか、今のプロダクトをどうすれば潜在顧客に届けられるかに力点があります。UXリサーチャーはどちらかと言いますと、作ろうとしているプロダクトに関する体験について調べて、どういうプロダクトにしていけば良いのか分かることに力点があります。ただ、実際使う手法はアンケートやインタビューなどと似通っていたりもします。

ですので、うまくコラボレーションして補いあえます。「このような思いでプロダクトを作ってきているから、ではマーケティングリサーチにはこのような項目を入れて調べたほうが良い」とか「マーケティングリサーチはこういった結果が出ているが、どうしてなのだろうかを調べてみよう」とインタビューで深掘りをしながらプロダクトの改善に活かしていく。そういったコラボレーションが起きていたりはします。

私自身は「もっとコラボレーションをしたい」と思っています。

Q8:「toB」と「toC」のUXリサーチのプロセスに違いはありますか?

草野

大きなプロセスは同じです。「toB」の方が調査協力者を見つけるのに時間がかかったり、ステークホルダーが多いので、インタビューする対象が多いです。

例えばシステム導入者とシステム利用者が違ったりしますので、それぞれ聞かなければいけないことがあります。

Q9:何度も検証を重ねて仮説のブラッシュアップされるとのことですが、最終的な結論はどう決めるのでしょうか?

草野

私たちの場合は「いつまでにリリースしたい」といった目標がございます。それに向けてクオリティをなるべく良い状態に持っていくという考え方ですので「このクオリティだから出そう」という考え方はあまりしておりません。

もちろん「これは出すわけにはいかない」と差し戻しになることもあるわけですが「こうなったから出ます」というよりは「ここまでやり切って出すぞ!」という姿勢で取り組んでおります。

また一度出した結論が、次の検証で覆ることは普通にあります。

例えば決済業界は半年でだいぶ状況が変わっていたりするからです。状況の変化やユーザーの変化によって、当時出した結論が今は当てはまらないことはあり得ます。なので、継続的にリサーチし続けて、状況に合わせてアップデートを繰り返していくことが大事です。

Q10:サービスを利用しているユーザーを対象にインタビューを実施したいと思っておりますが、どのようにインタビュアーを集められていらっしゃいますか? また目的によって異なるとは思いますが、想像よりも多くのインタビュー候補者が集まった場合の選定基準を教えていただきたいです。

草野

利用者の場合はアプリでお知らせをお送りさせていただいて、反応してくださった方に聞くことが多いです。もちろん非アクティブな方へ聞きたい場合は別の調査会社さんに呼んでいただくこともあります。

想定以上に集まった場合、そもそも私たちの場合はカレンダーで調整していくときに枠を決めておりまして「この枠に登録できる方を先着で募集します」という風にしておりますので、あふれることがないように設計しております。

次に選定基準という意味で言いますと、2つ方向性がありまして、1つはよりターゲットに近い方を細かくセグメントを分けて見ていきます。アンケートなどでわかる範囲で見ていき「この方のほうがより当てはまりそうだ」ということでお呼びします。

もう1つは「エクストリームな人」をお呼びするということです。例えば自由回答をすごい文章量で書いている方などのように「この人に聞いたら、いろいろな発見がありそうだ」と思う人にお声がけします。

Q11:インタビュー内容の作り方で効率的な方法があったらご教示いただけないでしょうか?

草野

インタビュー項目の作り方ということで言いますと、やはり探索型のインタビューの場合はガチガチに固めて一問一答のようにしてしまうと、その人の良さが引き出せなくなってしまいます。そうではなく、ある程度の項目は作りつつもインタビュー対象を見て深掘りする部分を自由に決められるようなインタビュー構成にした方が良い結果が得られると思います。

ABテストや検証型であるならば「その検証方法であれば、ここはしっかりとおさえて聞くべきだ」といった定義を明確にします。探索型とは異なり、広げていくというよりは必要な個所をしっかりとおさえていく、その周辺情報を抑えていくような設計にした方が良いでしょう。

Q12:マーケティングの部署と衝突などはないでしょうか?

草野

例えばマーケターは定量ばかり見ていて、リサーチャーは定性ばかり見ているから衝突するのではないかというイメージなのでしょうか?

私は「衝突などはない」と思っております。逆に程よい緊張感の中で質の高いディスカッションができていると思っております。

マーケターもUXリサーチャーも定量と定性の両方見た方が良いと思っていますし、データアナリストも行動データだけではなくアンケートやインタビューデータも含めて解釈した方が良いと思っていますし、私もそう思っています。

また会社の方針的に、社員全員がより良いお客さま体験やより良い事業の成長に向かって仕事をしているという考え方がありますし、それぞれに専門性があるということは、そこにその専門性の視点の意味があると思っております。各専門の視点からの意見は反対の意見でも大事な意見です。

意見が違ったとしても、それを上手く取り扱えばより良い方向に進むのではないかと建設的に考えておりますので、そういったカルチャーの良さもあるのかもしれません。


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